構造システムは、建築構造計算および各種構造計算用ソフトウェア(一貫構造計算、耐震診断計算、耐震補強、応力解析、振動解析など)のプログラム開発と販売を行っています。
事例レポート
超高層の耐震設計に柔軟な解析力を発揮
- 最高クラスの耐震グレードを誇る本社社屋で評価されたSNAPの性能 -
戸田建設株式会社は、旧社屋跡地に計画した地上28階、地下3階、高さ165mの芸術文化の拠点形成と地域の防災力強化をテーマとした超高層複合用途ビルであるTODA BUILDINGを2024年9月に竣工しました。
そのTODA BUILDINGの構造解析に「SNAP」が採用されました。
本計画に携わった構造設計統轄部の吉江一馬氏と釣賀達稀氏にお話を伺いました。

― ご自身の研究分野や経歴について教えてください。
釣賀氏
私は設計5年目です。
本社の超高層のグループでRC造の設計をしています。
基本はマンションが多くて、担当することが多いのは応答解析関係ですね。
吉江氏
私は設計7年目です。
私も住宅系の超高層のグループにおりまして、主にこの本社ビルの業務に携わっていました。
基本設計から実施設計、現場監理まで担当していました。
国内最高クラスの耐震グレードを有する建物
― TODA BUILIDINGの構造的特徴を教えてください。
吉江氏
戸田建設、つまり建設会社の本社ビルということもあり、弊社が持つ技術の集大成となっているビルです。
大きな特徴は、建物中央部にある二つのH形のコアウォールという構造と、アウトリガー架構です。
コアウォールは鉄筋コンクリート造の立体耐震壁のことで、建物の心棒となり、地震力を負担し上層階まで揺れと変形を大幅に低減できるのです。
アウトリガー架構は、コアウォールから建物外周部に張り出した端部RC中央部Sの梁で、これによりコアウォールの曲げ戻しを行っています。
また、下部にはそれを支える次世代型の「TO-HIS工法」という免震工法を採用しています。これは弊社の免震システムで、天然ゴム系積層ゴムとすべり支承、オイルダンパーの組み合わせになっています。
何が次世代型かというと、弊社で開発した新たな2種類のオイルダンパーを採用しているんです。
具体的には、セミアクティブオイルダンパーとトリガー機構付きオイルダンパーの2つを使用しています。
この建物では、コアウォールと次世代型免震工法を組み合わせることにより、地震時の建物の揺れを最上部においても200gal以内に抑えることが可能になっています。
大地震が起こった時に上層階のPCのデスクトップすら倒れないぐらい揺れが落とせる、とても耐震性能の高い事務所ビルとなっています。
― 今回、TODA BUILDINGの解析に「SNAP」を選んだ理由をお聞かせください。
アウトリガー架構
吉江氏
やはり「SNAP」でなければできないことがほとんどだったと思います。
まず一つ目の大きな理由は、免震装置のアクティブダンパーやオイルダンパーの設定です。
他の解析ソフトだと、そこまで細かい設定はなかなかできないので。
また、先ほど話があったコアウォールの設定ですね。
通常の壁エレメントモデルだけでは、この立体的な作用をうまくモデル化できません。
今回はファイバーモデルを使用していますが、そのモデル化をする上でも細かい設定や、せん断ばね、ファイバー要素ごとの設定などが必要になります。
そういった細かい設定ができるのは助かりました。
解析精度という点も大きな理由だと思います。
今回はオイルダンパーもこの建物のために特別に「SNAP」に組み込みをしていますが、他のソフトではこのように対応できなかったと思います。
釣賀氏
一番大きいのはファイバーモデルの設定ですね。
「SNAP」はファイバーモデルの要素単位ごとに設定できますが、他のソフトは基本的にはできないと思います。
また、細かい話になりますが、コンクリートのモデル化で耐力低下を見るのは他のソフトでもできなくはないと思うのですが、小回りが効かないことが多いので、そういった点が「SNAP」を選んだ理由の一つだと思います。
自由度が高く、やりたいことがスムーズにできる「SNAP」の独自性
― 「SNAP」を使用した感想を教えてください
釣賀氏
実験を行い、実験結果との適合性を検証する場面で「SNAP」を使うことが多いです。
ファイバーモデルは通常設計モデルでもよく使われていますが、検証を行う上で「SNAP」は自由度が高いことが利点です。
TODA BUILDINGでもコアウォールや免震装置の設計モデルの実験との整合性確認に活用しました。
他にもRCフレーム内にオイルダンパーを組み込む研究なども行っています。
その実験との適合性検証や、CFTからRCに切り替える柱の実験での適合性検証にも「SNAP」を使っています。
吉江氏
かなり自由度が高いところは、他のソフトと違った強みかと思っています。
その分少し操作が複雑になる部分はありますが、理解してしまえば使えるので。
そういったところが実験や大学でも広く使われている理由のひとつではないでしょうか。
例えば今回のTODA BUILDINGのような新しい取り組みを行う場合、他のソフトではデフォルト設定が固定されていて変更できない場合がありますが、「SNAP」であれば細かく設定を変更できるので、使っている中で、そういった点はありがたいと感じていました。
― TODA BUILDINGのプロジェクトで苦労したことは?
構造実験の様子
吉江氏
一番大変だったのは、転倒ですね。
中央にあるコアウォールのOTM(転倒モーメント)をどうやって抑えるかというのが苦労した点です。
そのためにアウトリガー架構として端部がRCで中央部がSになってる梁を各階に入れて、中央部にベルトトラスというトラスの梁を入れることで、今回転倒を抑えることができています。
それが設計上でかなりシビアだったところですね。
釣賀氏
一番大変だったのは、鉄筋の抜け出しばねですね。
普通の解析では柱の変形の中に抜け出し変形も含まれているものとして扱うのですが、抜け出しの影響を精緻に見るために、抜け出しばねを設定しました。
その抜け出しばねの設定をどうするかというところが、苦労しましたね。
― コアウォールの魅力はどういったところですか?
吉江氏
基本的には超高層建物は上部の剛性が柔らかくなってくるので、免震の効きが悪くなるんですよね。
上部の居住性を高くするには、上を硬くする必要がある。
それを解決するためにコアウォールとして、上部に心棒のようなものを入れて、それと免震システムを合わせることで免震層で90%エネルギーを吸収させて上階の居住性を上げたのが特徴です。
やはりそれが今回この建物の売りでもあって、魅力だと思います。
コアウォールは海外では結構一般的に使われている技術みたいです。
芸術や文化を楽しむ場としての役割も
― 非常に高い安全性が確立されているビルなんですね。
釣賀氏
この建物の耐震性能が高すぎてどこか他へ避難するよりもこのビルにいる方が安全なので、応急危険度判定要員の2次拠点地も決まっていないんです。
1階のビル前の広場も免震構造になっていて、有事の際に人が集まれる場所になっています。
都市への貢献として、1)まちに開かれた芸術・文化拠点の形成、2)街区再編、防災対応力の強化、環境負荷低減を掲げています。
そのため街との繋がりという点も大切にしていて、ビルの1階と2階に美術館やギャラリーも入っています。
建設会社の本社ビルにそういった施設が入ってるのは珍しいと思いますし、土日もすごく賑わっています。
― 会社のためだけの建物ではなく、地域の一部として開かれた空間なのが良いですよね。
吉江氏
ありがとうございます。
建築設計文化祭というものも定期的に開催しています。
物件の展示パネルなどを作ってそれを街の人たちに見てもらおうという企画です。
設計部が主催していて、今回はちょうどこのビルの8階が会場になっていました。
ここに戸田建設が入っていることを知らない人たちにも来てもらえて、展示も普段なかなか見られない内容なので楽しんで見ていただけたかと思います。
― お話を聞かせていただき、ありがとうございました。
高度な解析をより高速に解かりやすく
「SNAP」は、任意形状の構造物に対する部材レベルの弾塑性の動的応答解析、応力解析、増分解析を行います。
優れた操作性と高度な解析機能を備え、データ入力から解析結果の表示・出力まで、スピーディーに行えます。
64ビットアプリケーションのため解析を行う構造物の規模・データに制限はなく、マルチコアCPUを活用して複雑な構造物を高速で計算します。
豊富な自動計算機能により効率よく解析モデルを作成し、多彩な出力機能により解析結果を視覚的に把握できます。
超高層建物、制振構造、免震構造や木造など各種構造物の設計や耐震診断・補強に対応できる機能を備えています。
「SNAP」の機能紹介