構造システムは、建築構造計算および各種構造計算用ソフトウェア(一貫構造計算、耐震診断計算、耐震補強、応力解析、振動解析など)のプログラム開発と販売を行っています。

鉄筋コンクリート造建築物の耐震性能評価

事例レポート

鉄筋コンクリート造建築物の耐震性能評価
- サブストラクチャ仮動的実験での時刻歴応答解析で証明されたSNAPの実力 -

建築研究所は、建築基準法等に基づく技術基準の作成や関連行政施策の立案に反映できる研究成果を得るため、様々な実験施設を活用して研究開発をしている機関です。
この度、建築研究所の強度試験棟にある自己釣り合い式実大構造部材加力実験装置(以下、7軸加力装置)にて「仮動的実験」を実施するための計算プログラムに「SNAP」が採用されました。
鉄筋コンクリート構造を専門に研究されている中村聡宏氏にお話を伺いました。

建築研究所と構造研究グループとは?

中村 聡宏 氏
国立研究開発法人 建築研究所
構造研究グループ 主任研究員
中村 聡宏ナカムラ アキヒロ
国立研究開発法人 建築研究所
創立
1942年
所在地
茨城県つくば市立原1番地
URL
https://www.kenken.go.jp/
業務概要
国の関連行政施策の立案や技術基準の策定等に反映できる研究開発を行い、その成果を民間の技術開発や設計・施工の現場で活用

― ご自身の研究分野や経歴について教えてください。

中村氏 専門分野は主に建築物の耐震性能評価の研究で、対象となるのは鉄筋コンクリート造の建築物です。 新築だけでなく、既存の建築物の耐震診断や耐震補強などについても検討しています。 鉄筋コンクリート造の構造物や部分架構・部材の構造実験を実施し、それを分析したり、構造解析を実施して、建築物の構造性能を適切に評価をするための手法を提案する、ということを基本的にやっています。

― 一貫構造計算の設計式を作っているのですか?

中村氏 そうですね。 建築物の耐震性を確保する設計を行うためには、適切なモデル化が重要です。 建築基準法の特に構造に関わる部分について、国交省および国総研、建築研究所が監修した技術基準解説書(いわゆる黄色本)が出版されていますが、その中でモデル化や保証設計に関する各種評価式を提示しています。
一般の設計者の方がおよそ使ってもいいような評価式について基礎的な検討や情報収集をするのが、私が携わっている仕事のひとつとなっています。


国内最大級の試験装置

中村氏 実大構造物実験棟には、実大構造物に対して実験ができる高さ25mの、世界最大級の反力床と反力壁施設が設けられています。 1990年代、当時建築研究所に所属されていた中島正愛ナカシママサヨシ先生(現 株式会社小堀鐸二コボリタクジ研究所社長)らが、サブストラクチャ仮動的実験を提案し、実大構造物実験棟の制御設備に導入されました。
サブストラクチャ仮動的実験が90年代に実施できていたというのが建築研究所の大きな特色でした。 しかし、設備施設そのものが古くなってきてしまってジャッキや油圧源の容量も今やりたい実験には足りない状況になったことと、仮働的実験プログラム自体がブラックボックス化してしまったことから、なかなか使いづらくなっている現状もありました。

  • サブストラクチャ仮動的実験のための数値積分法
    (中島、他 日本建築学会構造系論文集第417号1990.11)

― そのプログラムを「SNAP」が引き継いで復活させたと。

7軸加力装置

7軸加力装置

中村氏 はい。 2019年に、強度試験棟に7軸加力装置が整備されました。 この装置は、鉛直ジャッキ4本と水平ジャッキ3本の計7本のジャッキを同時に制御できる設備となっています。
最大軸力は2000トン、20メガニュートンで設計されており、高い軸力をかけながら水平力をかけて、実大に近い鉄筋コンクリート部材の構造実験が実施できるようになっています。
このような高い軸力レベルでの実験が実施できる施設は国内最大級といえます。 その7軸加力装置の制御プログラム内に、サブストラクチャの仮動的実験ができる機能を追加をしたというのが、今回整備した内容です。

― 実大実験というのはどういったものですか?

中村氏 実際に建築物で使われるサイズ、スケールの部材や架構で実験するということです。
例えば、実大構造部材の構造実験を実施する場合、その部材の真の耐震性能を知るためにはそれらの部材が終局に至るまで加力をするわけですが、終局に至る前にそれらを固定している加力フレームの方が壊れてしまったり、外れてしまうと加力ができなくなってしまうので、やりたい実験容量よりもはるかに強い頑丈なフレームが必要なんです。 ただ、頑丈なフレームにも限界はありますし、油圧ジャッキの容量やストロークにも限度はあります。
実大の部材に想定される軸力や、大地震により作用するせん断力を再現しつつ、その終局性能を確認するために終局状態まで加力をする必要があり、そのためには大きな容量を持つ実験装置が必要ですが、それ相応のスペースや加力フレームも必要になります。 その制約のため、やむなくスケールを縮小した部材で構造実験をすることがあるのですが、寸法効果と呼ばれる小さいスケールと実大のスケールとの性能の差があるため、可能であれば実大スケールでの実験をしたいというニーズがあります。 それができるのが強度試験棟の7軸加力装置の大きな特徴です。


計算プログラムと実大実験の組み合わせで、より精度が上がる

― サブストラクチャ仮動的実験はどういうものですか?

中村氏 実大構造物の地震時の挙動を忠実に再現しながら耐震実験を進められるのが「仮動的実験システム」です。 建築物が大地震を受けて崩壊にいたるまでの過程を詳細に再現・分析することができます。 ゆっくりと力を与えて変形させるような静的な実験の中で、地震のような動的な応答実験や、少し不規則な応答の再現をするのは難しいです。 動的な動きを模擬した静的な実験が、サブストラクチャ仮動的実験になります。
具体的には、対象とする建築物の立体解析モデルを用意し、その中の一部の部材を実験対象とします。 例えば、1本の柱を実験対象とした場合に、計算プログラムで時刻歴応答解析をしますが、その時刻ステップごとに実験対象とした柱がどう変位するかを計算します。 これを予測変位と言っていて、その予測変位を加力制御プログラム側で受け取り、予測変位に到達するまで実際に試験体の加力をします。 加力をして得られた試験体の軸力・せん断力・曲げモーメントといった応力を、計算プログラム側に返します。 計算プログラム側では、予想している応力と差があるので、実験で得られた応力に合わせて修正計算をした上で、次のステップの予測変位を計算して...というようにステップごとに順番にやっていく加力方法になります。 結果的に試験体の復元力特性が解析モデルにフィードバック、反映され、より現実に近い挙動を再現することができるという実験手法になってます。


サブストラクチャ仮動的実験だからこそ得られる結果

― サブストラクチャ仮動的実験の目的や用途などを教えてください。

仮動的実験で使用したSNAPのデータ

仮動的実験で使用したSNAPのデータ

中村氏 動的挙動を再現できる振動台実験設備で実大構造物を揺らすのは難しく、防災科研(科学技術研究所)のE-ディフェンス(実大三次元震動破壊実験施設)くらいのレベルじゃないとできないものなので実験的な検証結果が得られにくいです。 このサブストラクチャ仮動的実験を使うことで、実際の部材や架構が動的な地震力に対して持っている性能という、性能評価の観点では非常に重要な情報が出てくるのが大きな成果だと思っています。
例えば超高層建築物が地震で揺れると、場合によっては低層階の柱に引張軸力と圧縮軸力が繰り返し作用しながら、水平力も作用するという複雑な応力状態になります。 そういった複雑な応力状態での部材の性能を静的実験で確認しようとした場合に、加力制御ルールの決め方が難しいです。 サブストラクチャ仮動的実験だからこそ、そういう複雑な応力の変動も実際に近い状態を再現できるという意味では非常に有用だと思っています。
また、いわゆるピロティ構造の柱には強い圧縮力と引張力が繰り返しかかるような状態になります。 ピロティ構造では、極端に剛性が低いピロティ部分に変形が集中して層崩壊が生じる可能性があり、阪神淡路大震災等の大地震でたびたびそういった被害が確認されています。
先ほど申し上げた構造関係の技術基準解説書においても、ピロティ構造での層崩壊を防止する設計方法や許容する設計方法を提案しております。
一方で、実際にピロティ構造を再現した架構の実験もしておりますが、ピロティ柱や枠梁が複雑な応力状態となるため、設計は極端に安全側にせざるをえない状況です。 サブストラクチャ仮動的実験を活用して、複雑な応力状態を再現してその性能を見ることで、ピロティの設計をより合理的にしていく上では重要な成果が出てくると思っています。

― 軸力変動の再現がポイントですね。能登半島地震では杭が損傷するケースが複数確認され、注目されました。

中村氏 おっしゃる通り、2024年1月に発生した能登半島地震では、地盤や杭基礎部分の損傷に起因すると思われる建築物の被害が確認されています。 東日本大震災等のこれまでの大地震でも確認されていたものです。
中高層建築物の基礎には一般的に杭が用いられるわけですが、地震時には極端な変動軸力が作用し、水平力は上部構造からの慣性力と地盤の変位による水平力の両方がかかり、かなり複雑な応力状態となります。 7軸加力装置は、軸力の最大容量が2000トンとなっており、こういった杭部材とか基礎部材の構造実験を実施することもできます。

― 7軸加力装置での仮動的実験が、今後の耐震対策の役に立てるといいですね。


「SNAP」は根幹の弾塑性解析プログラムが非常に信頼できる

― 今回「SNAP」を用いた理由を教えてください。

中村氏SNAP」はいろんなタイプの特殊な構造、複雑な立体解析モデルを組め、弾塑性解析が安定して実施できるプログラムと理解しています。そのあたりが今回やりたいような実験に合っています。 もともと解析研究で使わせてもらってはいたんですが、今回の仮動的実験プログラムにも応用できないかなというのが、やっぱりベースにはあったかと思います。
あと、根幹の弾塑性解析プログラムが信頼できるというのが大きなポイントでした。

― 東大の青山研究室で研究用に使っていた弾塑性解析プログラムですね。 「SNAP」だけでなく弊社の一貫構造計算ソフトウェア「構造モデラー+NBUS7」でも使用しています。

中村氏 そのように整備されたプログラムを研究活用するためには、膨大なプログラムコードを読み解いてアルゴリズムを理解しないといけないのですが、SNAPはデータの入出力や解析結果について直感的に、視覚的にわかりやすくしてもらえていると理解しています。
歴代の先生たちのプログラムを参考にして作られたものなので、長い期間かけて成熟して、きれいに整備されているベースがあるというのが大きいですね。 建築研究所や国総研の研究者でも「SNAP」を使って解析研究を実際にやられている方は多いので、そういったことも理由の一つですね。

― 「SNAP」を使い始めてどのくらい経ちますか?

中村氏 私が名古屋大学の研究室で助手になった2010年頃からだと思います。 私が主担当となったプロジェクトで、骨組解析をする必要があり、当時の教授から紹介いただきました。 実際に解析を回してみて知ることも多かったので、半分は勉強も兼ねて使っていたということかなと思います。
今回の仮動的実験での「SNAP」の活用では、ある程度「SNAP」の使い方を知っていたからこそ、限られた時間で効率よく作業できたと思います。

― データ作成は弊社の解析部門がお手伝いしましたね。

中村氏 立体解析モデルをいちから組むのは相当時間がかかったと思うので、とても助かりました。 今後この仮動的実験をやる際には基本的にはいちから立体解析モデルを構築しないといけないので、やっぱり使い慣れてる「SNAP」で良かったと思いますね。


ネットワークを介して異なる場所で同時に実験を

― サブストラクチャ仮動的実験の今後の展開を教えてください。

中村氏 今回はある一つの加力装置に対して導入しましたが、将来的には複数の加力装置を活用して、同時に複数の実験部の載荷するという展開はあるかもしれません。 別の加力装置で同時に載荷し、複数の結果をフィードバックすることで、解析モデルをより現実に近いものにしていくことができると私は思っています。 ネットワーク技術も発展していますので、ネットワークがつながっている場所であれば国内外に限らず活用できるのではないかと思います。
大学の研究機関でも部材実験できる装置を持っているところは多数あるので、その制御プログラムに、予測変位を受け取ってその通り制御して応力を返すような機能を追加してもらえると、オンラインサブストラクチャ仮動的実験のようなものが実現できるんじゃないかなと。 そういったことをすれば、10階建ての実大建築物をE-ディフェンスで作って大きく揺らさなくても、それぞれの現場で実験した結果を全部集約することでそういった実験らしき結果が出てくるというのは、結構夢があるとは思っています。 建築研究所内でもいくつか試験装置があるので、まずはその中で連動ができないかなと考えています。

― お話を聞かせていただき、ありがとうございました。



高度な解析をより高速に解かりやすく

SNAP」は、任意形状の構造物に対する部材レベルの弾塑性の動的応答解析、応力解析、増分解析を行います。 優れた操作性と高度な解析機能を備え、データ入力から解析結果の表示・出力まで、スピーディーに行えます。
64ビットアプリケーションのため解析を行う構造物の規模・データに制限はなく、マルチコアCPUを活用して複雑な構造物を高速で計算します。
豊富な自動計算機能により効率よく解析モデルを作成し、多彩な出力機能により解析結果を視覚的に把握できます。
超高層建物、制振構造、免震構造や木造など各種構造物の設計や耐震診断・補強に対応できる機能を備えています。

「SNAP」の機能紹介 



高度な解析性能と優れた操作性の調和




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