構造システムは、建築構造計算および各種構造計算用ソフトウェア(一貫構造計算、耐震診断計算、耐震補強、応力解析、振動解析など)のプログラム開発と販売を行っています。
事例レポート
建物を包む耐震補強の帯
- 耐震改修で評価されたDOC-RC/SRC -
金箱構造設計事務所では、単に所定の耐震性能を満足させるだけではなく、建物にそれ以上の付加価値を与える耐震改修の可能性を追求して、補強設計を行っています。
その一例が、静岡県浜松市で完成した「浜松サーラ」です。
構造設計を担当した木下 洋介 氏にお話を伺いました。
DOC-RC/SRCの導入経緯
DOC-RC/SRCモデル図
「ここ数年で耐震診断・耐震補強の物件が増えてきており、全体の業務の1割に達しています。
浜松サーラは、延床面積が15,000m²と比較的大きな物件だったこともあり、これを機に耐震補強・耐震診断プログラムの購入を検討しました。
『DOC-RC/SRC』採用の決め手になったのは、高い操作性です。
構造システムの一貫構造計算プログラムである『BUS』の入力を引き継いでいることもあり、操作しやすく、CADライクに入力できました。
出力結果はフルカラーできれいに章立てやページ割りされており、見やすく確認しやすいものでした。
また、当事務所ではこの物件のような特殊な補強をすることが多いため、直接入力ができない箇所が多いと使えません。
『DOC-RC/SRC』は、靭性指標や耐力などが状況に応じて直接入力できて、柔軟性があるところも採用の大きな決め手になりました。」
浜松サーラの耐震補強
スパイラル・ブレースド・ベルト補強ダイアグラム図と完成写真
「この物件は、黒川紀章氏の設計により1981年6月に完成したSRC造(一部RC造)、地上7階、地下1階の店舗や集会場、オフィスが入る複合施設です。
耐震改修にあたり施主より、この建物を地域のランドマークになるような奇抜なデザインにしたいと要望がありました。
テナントビルのため居ながら改修を念頭に、外付けブレース補強で、かつインパクトのあるものを設計担当の青木茂工房と模索しました。
その結果、外付け鉄骨ブレース補強を斜めの帯状に配置する『スパイラル・ブレースド・ベルト補強』を考案しました。これは建物各層各部で必要となる補強量に対応して補強フレーム配置を考慮し、補強フレームをスパイラル状に連続させることを主眼として考案した補強方法であり、外付けフレーム補強の応用でもあります。
補強の帯を連続的にすることにより、転倒モーメントによって生じる柱軸力を最小とし、既存の柱、基礎の特定の部分に過大な負荷を与えることのない合理的な耐震補強方法となっています。加えて補強フレームによるかつてないダイナミックな外観を作り出しています。
通常の補強鉄骨ブレースでは、ブレースが負担する水平せん断力を後施行アンカー、充填モルタル、スタッドなどを介して既存の躯体に応力を伝達しますが、この斜めブレースは、直接的に下層に応力を伝達します。
その上、外付けブレースでもあるため、内部空間の工事による拘束時間が少ないことも利点です。
実際に、改修工事は、テナントに建物内を移動してもらいつつではありましたが、建物を継続使用しながら行いました。
他にも特徴的なことは、1階の出入口を確保するために、1階部分のブレースを外に張り出したところです。
この張り出しには相当な圧縮力と引張力がかかるため、600tのマスコンクリートをカウンターウェイトとして設置しました。」
「また、この建物では“地域のランドマークに”という施主の意向に沿って考えられた耐震補強ブレース自体が最大の特徴になっています。
このことが、単なる耐震補強だけでなくそれ以上の付加価値を建物に与えています。
新築の物件では、意匠と構造とで創造性のある設計を行うことはありますが、それが耐震改修でも同じように発揮できるというのはあまり意識されていないことだと思います。
耐震補強といいますと、強度を確保するという志向になりがちです。
強度を確保するだけではなく、外観的にもインパクトがあり、新築と同じような新しさがある補強が可能だということ、補強でも設計の自由度があるということが、この物件での収穫であり、目指したところでもあります。」
DOC-RC/SRCを利用した耐震改修
「使用した解析プログラムは『DOC-RC/SRC』のみです。
通常、外付けブレースは周りに枠材が付いていますが、この物件では片側が外れている特殊なブレースを使用しているため、MicrosoftExcelで耐力とF値を計算し、直接入力しています。
また、内部の耐震補強は内付け鉄骨ブレース補強とRC耐震壁の打ち増し、開口閉塞補強を行っています。
こちらもそれぞれの接合部の設計や靭性指標の算出をMicrosoftExcelで行い、直接入力しました。
『BUS』を使ったことはありませんでしたが、それでも最初から戸惑うことなく入力できました。
マニュアルを見ても分からないときはサポートに問い合わせましたが、聞いたことに対して真摯に対応していただきました。」
※ 「浜松サーラ」は、新建築2010年7月号、新建築2011年1月号、日経アーキテクチュア2010年7月12日号に掲載されています。
耐震診断計算から補強設計までをカバー
「DOC-RC/SRC」は、耐震診断基準に準拠した既存RC/SRC造建物の1次・2次耐震診断ソフトで、(一財)日本建築防災協会・(一社)建築研究振興協会の評価(P評価11-改1-RC)を取得しています。
耐震改修を行う場合の補強設計にも使用できます。
適用範囲、入力データおよびメニューは「BUS」(RC/SRC/S造建物の一貫構造計算)と共通で、構造設計から耐震診断までひとつのデータで計算することができます。
「BUS」と連動しない単独使用の場合も、建物重量、長期軸力、地震時変動軸力、偏心率、剛重比などの自動計算機能を備えています。
2001年版RC診断基準((一財)日本建築防災協会)、2009年版SRC診断基準((一財)日本建築防災協会)に準拠しています。
「DOC-RC/SRC」の機能紹介